[1]望遠鏡のしくみ
望遠鏡は遠くのものを拡大して細かい部分を見たり,暗い天体を明るくして見たりする道具です。鏡筒,架台,三脚(ピラー)の3つの部分からできています。
a 鏡筒
鏡筒の形式には大きく分けてレンズを使う屈折式,鏡を使う反射式,両方のいいところを使う複合式があり,それぞれがまたいろいろな形式に分かれます。
一般に,屈折式天体望遠鏡はケプラー式,反射式はニュートン式のものが多くなっています。
屈折式
屈折式
反射式
反射式
複合式(シュミット・カセグレン式)
b 架台
架台は大きく分けて経緯台と赤道儀があります。
経緯台は上下・左右に動くので扱いが簡単でわかりやすいですが,天体を追いかけるには上下・左右の両方の軸を動かす必要があるので,手で追いかけるのは大変です。一方,赤道儀は,片方の軸を北極星に向けておけば,その軸の回転だけで天体を追いかけられるので,便利です。ただし,最近の高性能な望遠鏡は,コンピュータとつないで天体をさがしたり追いかけたりできるので,経緯台でも便利に使うことができます。
屈折経緯台
反射赤道儀
シュミット・カセグレン式経緯台
[参考]望遠鏡の動き 経緯台と赤道儀
水平方向に動く軸で望遠鏡を左右に動かし,上下方向に動く軸で望遠鏡を上下に動かします。
コンピュータとつなぐと,両軸のモーターを動かして自動で天体を入れたり,日周運動にそって天体を追いかけることができます。
赤道儀
北極星の方向に向けた極軸と,それに直交する赤緯軸の2つの軸をもっています。一度天体に向けたら,極軸の動きだけで天体を追いかけることができます。そのため,モーターは極軸を動かすだけでいいので,1つですみます。高級機では両方の軸にモーターがついていて,コンピュータとつなぐと天体を自動的に入れることができます。
c 性能と選び方/口径と鏡筒の形式
望遠鏡の性能は倍率ではなく,口径で決まります。口径が大きいほど同じ倍率で見たときに明るく見え,かつ細かいところまで見えます。
鏡筒の形式としては,屈折式が最も扱いやすく,初心者向きです。反射式は少々扱いが難しいのですが,色にじみが少なく,より像がシャープに見えます。
【焦点距離と倍率】
倍率は,「対物レンズ(鏡)の焦点距離÷接眼レンズの焦点距離」で計算できます。
そのため,倍率を上げるには,接眼レンズを焦点距離の短いものに交換します。
焦点距離の異なる接眼レンズを何本か持っておくといいでしょう。
【倍率】
倍率が大きいほど細かい部分を拡大して見ることができますが,倍率を上げすぎると像が暗くて見えにくくなります。適度な倍率は,望遠鏡の口径をcmで表した数字の5~20倍といわれています。
たとえば,口径10cmであれば,50倍から200倍となります。接眼レンズは,その間の倍率になるように選ぶといいでしょう。
【架台の形式】
赤道儀よりも経緯台の方が比較的安く購入できます。モーターがついているものは高くなります。
一般的に架台は重くてがっちりしているものが,鏡筒をしっかり支えられてぶれないため高倍率でもはっきり見えます。
[2]望遠鏡の組み立て
まずは組み立てて,次に各部を調整してから天体に向けます。
STEP
①三脚を置く→②架台を組む→③おもりをつける→④鏡筒をつける→⑤接眼レンズをつける→⑥ファインダーをつける→⑦細かい部品をつける
①三脚を置く
比較的平らな,しっかりした場所を選び,三脚を組み立てて置きます。
このとき,三脚の上部の平らな面がほぼ水平になるようにします。
②架台を組む
三脚の上に架台をのせて固定します。
③おもりをつける
赤道儀の場合は,バランスウェイトというおもりをつけます。先に鏡筒をつけるとバランスが崩れて危ないので,必ず鏡筒をつける前におもりをつけます。
④鏡筒をつける
架台の上に望遠鏡をのせて固定します。このとききちんと固定しないと鏡筒がぶれるので,しっかりネジをしめます。
⑤接眼レンズをつける
鏡筒に接眼レンズをつけます。はじめはできるだけ低倍率のものをつけます。その方が広い範囲が見えるので,簡単に見たいものに向けることができるからです。
⑥ファインダーをつける
鏡筒にファインダーをつけます(最初からついているものもあります)。これもきちんと固定しないとファインダーの役目をなさないので,しっかり固定します。
⑦細かい部品をつける
ハンドル,モーター,ハンドボックス,ケーブルなどの細かい部品をつけます。
部品をつけたら,これでひとまず完成です。
[3]望遠鏡の調整
各部を調整してから天体に向けます。
STEP
①極軸まわりのバランスを合わせる→②赤緯軸まわりのバランスを合わせる→③ピントを合わせる→④ファインダーのピントを合わせる→⑤ファインダーと鏡筒の方向を合わせる→⑥極軸を合わせる
①極軸まわりのバランスを合わせる
経緯台であれば,鏡筒の前後のバランスを考えて架台につければ終わりです。
赤道儀であれば,架台の極軸を固定しているねじ(クランプ)をゆるめて望遠鏡が極軸のまわりに動くようにし,左右のバランスが合うようにバランスウェイトの位置を調整します。
②赤緯軸まわりのバランスを合わせる
次に写真のように望遠鏡とおもりが水平になるようにしてから,赤緯軸を固定しているねじ(クランプ)をゆるめます。望遠鏡が赤緯軸のまわりに動くようにし,鏡筒の前後のバランスが合うように調整します。
その際,写真のように望遠鏡を持つ手の幅をせばめていくと,重心がどのあたりにあるかがわかります。鏡筒の重心の位置で架台に固定するとうまくいきます。
③ピントを合わせる
夜,天体に向けてピントを合わせるのは大変です。昼間の明るいうちに,山やビルなど,遠くの目標に望遠鏡を向けて,固定してからピントを合わせます。
その際,モーターのスイッチは切っておきます。
④ファインダーのピントを合わせる
ファインダーのピントは,接眼レンズを回して合わせる形式のものが多いです。
遠くの景色や星を見ながらはっきり見えるように合わせます。
ピントが合っていない
ピントが合っている
⑤ファインダーと鏡筒の方向を合わせる
ファインダーと鏡筒を平行に合わせて光軸を調整します。
これも慣れないうちは昼間のうちに練習して合わせておきましょう。
まず,望遠鏡の向きを変えて,遠いところのビルや鉄塔などがメインの鏡筒で見えるようにします。次に,ファインダーのロックネジ(3つ)をゆるめて調整ネジが動くようにします。
さらに,鏡筒の方で見たものと同じものがファインダーの十字線上に見えるように,調整ネジを回してファインダーの向きを変えます。
その際,片方の調整ネジをゆるめるのと同時に,もう片方の調整ネジを締めると,矢印の方向に景色が動くので,うまく合わせられます。
3本のネジのうちの2本の組合せを変えると,それに応じて動く方向も変わります。
⑥極軸を合わせる
極軸が北極星(天の北極)の方向に向くように合わせます。
極軸に小さな望遠鏡(極軸望遠鏡)が組み込まれているときは,それを利用します。中をのぞくと右のようなパターン(メーカーごとに異なる)が見えるので,北極星がそのパターンの正しい位置にくるように望遠鏡の極軸の向きをネジで動かして調整します。
極軸望遠鏡内部の表示の例
極軸を上下左右に動かして合わせます。
極軸望遠鏡内部の表示例
北極星のさがし方
北極星は,図のような位置にあります。北斗七星やカシオペヤ座からさがすと,見つかりやすいです。
[4]天体に向ける
a 向け方
まずは望遠鏡をフリーにして,ファインダーでのぞきながらだいたい方向を合わせて固定します。次に,ファインダーの十字線上に天体が来るようにモーターやハンドルで微調整します。
メインの鏡筒の方に入っていることを確認します。
ピントを確実に合わせます。
自動導入
望遠鏡を天体に向ける際,ファインダーで見て向けなくても自動的に導入する方法があります。
まず望遠鏡を組立ててコンピュータとつなぎ,ソフトを立ち上げます。
次に,月や1等星など,わかりやすい天体を望遠鏡に導入し,コンピュータの星図上でその天体と同期します。
あとは向けて見たい天体をコンピュータの星図上でクリックするだけで,モーターが自動的に動いてその天体を望遠鏡に導入できます。
b 接眼レンズと天頂プリズム
接眼レンズの交換
必要に応じて倍率を変えるために,接眼レンズを交換します。接眼レンズを交換するたびにピントの確認が必要です。
天頂プリズム
屈折望遠鏡をほぼ真上に向けるときは,のぞきにくいので,天体からの光を直角に曲げるための天頂プリズムという部品を付けます。
[5]望遠鏡で見られる天体
月
表面のようすやクレーターが見えます。
全体を見るには60~80倍程度,拡大して見るには100~200倍が適しています。
明るいので高倍率でもよく見えます。
惑星
木星の縞模様や土星の環,金星の満ち欠けが観察できます。
細かいところをよく見るには100~200倍が適しています。比較的明るいので,高倍率でもよく見えます。
彗星
頭部のコマや核のようす,明るい彗星では尾も見えます。実際は双眼鏡の方がよく見えることも多いです。
淡いので高倍率ではほとんど見えません。できるだけ低い倍率で見た方がいいです。
星雲・星団・銀河
星雲はガスのひろがり,星団は星の集まり,銀河は星やガスの大集団です。星雲や銀河は淡いので,20~30倍の低倍率が適していますが,星団を大きく見たいときや細かいところを見たいときは60~100倍がよいでしょう。